特設サイト第103回 漢方処方解説(55)潤腸湯

潤腸湯

朝晩、かなり涼しくなってきました。今夏の暑さを思えば、とても過ごしやすい気候になったと喜んでいますが、気温の変化や乾燥によってのどに違和感を覚えると、「もしかして...」と気になる今日この頃です。そんなところも「新しい日々」なのだろうと思います。

さて、今回ご紹介する処方は、潤腸湯(じゅんちょうとう)です。
いわゆる習慣性の便秘に用いられる処方ですが、「体液が不足して大腸の粘滑性が失われたために生じた便秘」によいと言われ、高齢者や虚弱者の便秘症によく使われます。
構成生薬は10種で、地黄(じおう)、当帰(とうき)、黄(おうごん)、枳実(きじつ)、杏仁(きょうにん)、桃仁(とうにん)、麻子仁(ましにん)、厚朴(こうぼく)、大黄(だいおう)、甘草(かんぞう)です。よく見ると、常習性便秘に使うとご紹介した大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)の二味が配合されていますし、高齢者によくある乾燥性の兎糞便に有効とした麻子仁丸(ましにんがん)も含まれています。大黄甘草湯に芒硝を加えると調胃承気湯(ちょういじょうきとう)という便秘薬になりますし、潤腸湯に配合されている大黄、枳実、厚朴という構成生薬からなる処方は小承気湯(しょうじょうきとう)と呼びます。また、小承気湯に芒硝が加味されますと大承気湯(だいじょうきとう)という、これまた便秘薬になりますし、桃仁もまた便秘を伴う婦人科疾患に応用される桃核承気湯(とうかくじょうきとう)でご紹介した生薬です。

構成生薬から見ると、なかなか複雑な印象をもちますが、便秘や腹満に用いる小承気湯をベースとして麻子仁、芍薬、杏仁を加えた麻子仁丸から芍薬を除いて、地黄、当帰、桃仁、黄、甘草を加えたのが潤腸湯であるということができます。地黄や当帰は、潤いを与える滋潤剤でありますし、桃仁は麻子仁や杏仁とともに種子を用いる生薬で、油成分が多く、潤滑油のように働いて便の通りがよくなるとされますから、体力が低下して体液の低下傾向のある方、とくに高齢者の便秘にと言われる所以かと思います。また、厚朴や枳実は気の巡りをよくする理気剤ですから、腸管内に溜まったガス(一種の気滞)を解消する働きがあると考えられています。
この中で、杏仁と桃仁は、それぞれバラ科のアンズ、ホンアンズやモモの種子で、アミグダリンという青酸配糖体を含みますが、杏仁は鎮咳去痰薬、桃仁は駆血薬として利用されることが多く、共通するところもある一方で、使い方が異なるという不思議な生薬ですので、生薬学の試験でよく問われることとなっています。

下剤は、刺激性下剤と機械性下剤とに分類されます。
便秘の改善には、原因となる疾患がない場合、摂取する水分量や食物繊維量の改善などの生活指導からはじまり、酸化マグネシウムなどの機械性下剤を服用しても改善されない場合に刺激性下剤を頓用するという治療方針がとられます。ここで紹介した多くの漢方薬は、主に大黄を含むため、刺激性下剤に分類されますが、多彩な作用機序をもつことが考えられ、明確に区分することが難しいかもしれません。 数多くある処方を適正に利用するには、その構成生薬の役割をはじめ、古典に精通すると同時に、科学的根拠を求めなければならないと思います。

(2023年11月2日)

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